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『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―
『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―
Author: 設樂理沙

◇幸せって 第1話

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-03-09 08:10:06

1

昨日までのあたしは、平凡ながらも幸せだった。

大恋愛の末、結婚をした知紘《ちひろ》との暮らしに。

……なのに、たった一日でグルリンパっとあたしの幸せが

ひっくり返ってしまった。それはものの見事に。

こんなことって、ある? びっくりし過ぎて涙も出やしない。

それは……ほんの小一時間ほど前の出来事。[今は夜時間]

知紘が珍しく酩酊状態に近いぐらい酔っぱらって帰宅。

ドアを開けるなりいきなり、トーク炸裂。

「ねね、聞いてぇー。うひひ、俺ってなんでこうモテちゃうんだろねー」

「チーちゃん、気をつけて。こけそうだよ」

知紘が片手を壁について、靴を脱ごうとしているんだけど、

身体がふらついていて危うい。それでも話は止まらない。

「俺さぁ~、田中真知子さんからデート誘われたんだぜ。

あーっ、モテてごめんねっ。うひひっ。

あっ、おいっ、そこのおばさん、嘘じゃないぜっ。

信じてないなぁ~。ちよっと待ってみ……」

くだらないことを言いながら知紘がふらふらしながら

ポケットに手を突っ込む。

出してきたのは小さなカードのような名刺。

「これ、見てー」

私に手渡してきたので仕方なく名刺を見た。

『田中真知子』と保険会社の社名入りの名刺だった。

確かに知紘の言う名前と一致している。

『そんな女とどこで知り合ったのよ』

知紘に聞きたいわけじゃないから訊かない。

知りたいのは本当だけど。

名刺からして、彼女の営業絡みというのはおよそ察しはつくけども。

だけど今日は野球のサークルからのご帰還なわけで、どいうこと?

 って思うわけよ。

会社に来て会ったというのでないのなら、野球の練習している場所に

彼女が来てたってことになるわよね。

「はい、はいー。見た? じゃっ、も……返してっ。

彼女さぁ、むちゃくちゃ俺好みなのよー。ドストライクぅ~」

『はぁはぁ、さようでございますかっだわさ』

ここまではギリ許容範囲だった。

「んとにな、古女房とは比べ物にならんっ。あははははーっ。

真知子ぉ~、スキっ」

そう言いながら知紘は名刺にキスをした。

『ぎゃあ~、阿保タレがっ、なにを……』

「ねねっ、ちょ、聞いてるぅ? おばさん」

「おばさんって誰やねん」

私が訊くと、ちゃんと反応する知紘。

いらんところ反応しなくてよろしっ。

知紘が私の顔の前に指を突き出して、ちゃんと私を指しやがった。

フンっ。

「ねねっ、旦那が綺麗な女性とデートしたら

奥さんって怒るのかな?」

「普通はね」

「俺は行くよ、デート。彼女と行く。

美鈴に邪魔なんてさせねぇー。コンチクショウ、古女房に発言権なしっ。

そうだ、捨てればいいんじゃないか。

古女房はポイっだ。

俺は真知子ちゃんと結婚するー」

そう宣言して知紘はヨロヨロと寝室へ消えていった。

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    61  ― 根本、美鈴の過去世を視る ―「目をつむってくれますか?  僕は少しの間あなたのことを集中して視ることにしますから」根本さんから指示されて私は瞼を閉じた。 それはものの30~40秒の間のことだっただろうか。「はい、もういいですよ」 と彼から言われ私は目を開けた。 「彼はどうやら前世であなたと知りたいだったみたいですね」   「恋人同士だったとか夫婦だったとかって、そういうことでしょうか?」「いえ、そういうのではなさそうです。 人間界で言うなら、同じ職場の同僚だったようなそれくらいの関わりですね。どうしたのでしょうね、わざわざ金星からあちらでの時間軸が違うとはいえ、時間を費やして来ているわけですから。あなたに恋でもしていたのじゃないですか。 地球にまでわざわざやって来ているのですから。きっと、野茂さんの熱烈なファンだったのかも」「えーっ、そんな付き合ったり結婚していたわけでもないのに、わざわざ?   ストーカーには見えませんでしたけど」私ったら、あんなに素敵で、しかも私を慰めてくれた人に対して、 ストーカーだなんて言葉を口にしたりして。少し、自己嫌悪。          ◇ ◇ ◇ ◇ 俺はそれ以上、彼女に何も告げなかった。金星人の彼が過去世で彼女に対してどれほどの想いを抱えていたのかを。そして、もう一つ重大なこと……彼女もまた彼に惹かれていたという事実を。話すべき機会《時》が来れば、その折には話してもいいかもしれない。だからといって、彼女を譲ったりはしないがな。

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇私は霊能者 第60話

    60  ― 特殊な能力者 ―「さっきの話だけど、僕は元々東北の方の生まれでね、そういう家系なんだ」「そういう家系とは?」「つまり、霊能者ってこと」「青森と言えば、女性霊媒師でイタコのことは聞いたことありますけど、でも確か男性のイタコは聞いたことないですね」「そう? 過去テレビなどで取り上げられていたのがたまたま女性ばかりだったからかもしれないね。でも確率の問題で沖縄のユタなんかもそうだけど、男の霊能者を名乗る人間は結構いますよ」根本さんの言い方に違和感を感じて私は失礼を承知で質問を投げかけた。「偽者もいるということでしょうか?」「そう……ですね、中にはいるかもしれません。ちらっと数人に対する偽者発言は聞いたことありますね」「……ということは、根本さんは本物ということでしょうか? あっ、失礼しました。不躾な質問をしてしまいました」「大丈夫ですよ。野茂さんのように考えてしまう人が大半でしょう。ただ本当に救いを求めて困ってる人には、本物の霊能者に出会ってほしいと思います。困ってる人は藁をも縋るという精神状態ですからね。ただ、信じても信じなくても僕はどちらでも構いません。本業はちゃんと別にありますし、仕事として人に何か手助けをしているわけでもないので。ただ、今回のあなたへの発言は間違っていない自信があります。どうですか?」「はい。普通の人が聞けばキ〇ガイ扱いされそうですが……。数か月前、私が凹んで打ちのめされていた時に、私を励ましてくれた金星人? ですかね。金星から来たという人と植物園で遭遇しました」 「その人物はあなたに会いに来た目的を何か話しましたか?」「え~っと、それは何も聞いていません。ほんと、どうして私の前に突然現れたのでしょう。私ったら呑気ですよね。根本さん、何か分かりますか?」

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇ウォーキングに参加 第59話

    59結局その後、メールの遣り取りを経て、私は根本さんに誘われる形で市の『宇宙人を探せ! in 宝が池公園』と銘打つウォーキングに参加することとなった。参加を決めてから当日までを数えると20日余り。健康と美容のためもあり、私は毎日人気《ひとけ》や車の往来の少ない道を選んで練習を重ね日々を過ごした。……そして、イベント当日を迎える。私たちは根本さんの車で現地まで行くことにしたのだが、周辺の駐車場が少ないため、予定時刻よりかなり早めに出発し最寄りのカフェで朝食を摂ることにした。私はドーナツと紅茶を、根本さんはサンドイッチとコーヒーを注文し時間を潰《過ご》した。外を歩くにしても公園内で時間を潰すのにも、今が暑からず寒からずの良い気候なので助かる。食後しばらく胃袋を休ませてから、私たちは公園へと向かった。― ある日、宝が池公園に宇宙船がやってきた……というSTORY. 宇宙船に乗っていたのは、ご当地観光ツアーに来た宇宙人で、わくわくが止まらない宇宙人は、ツアーガイドの言うことを聞かず好き勝手に行動しはじめてしまったという設定。宇宙人を探し出すというのがミッションだった ―いや、何て言うか……親子連れとかだと楽しくて良い企画だと思うけど。でもまぁ、ひたすらゴール目指して歩くだけよりは途中でおさぼりもできそうだし、いっか。根本さんが何才なのかは知らないけど私と似たような年齢だと思うから何が悲しくておばさんとおじさんがこんな子供向けのイベントに参加とは……とほほのホと思わなくもないけど、よいお天気だし気持ちよく過ごそう~っと。しばらくの間、ここかなあそこかなと探しまくっていたけれど人目のつかない場所で何度か私たちは休憩し《だらけ》た。2回目の休憩迄は『宇宙人はどの辺にいるのだろう』と今回の趣旨に外れない会話だったが、3回目の休憩タイムに入った時のことだった。「野茂さん、最近金星人と接触したことあるでしょ」と根本さんから言われた。えーっ、一体全体~どういうこと? 大体からして、金星人という言葉自体普通の人間の人知を超えた単語で、尚且つ私がその疑わしいような金星人と出会っているなんてことを知っているなんて、根本さん……何者なのじゃ。実際自分が体験しているというのに、私は頭が真っ白になるわ、胸はドキドキするわで、

  • 『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―   ◇楽しいをシェア 第58話

    58『一人で水族館巡りかぁ~』なんて考えていたら、すっと自然に側にいた根本さんから話し掛けられてそのまま一緒に見て回る雰囲気になった。あちこちあ~だこうだと話しながら、最後には一緒に座り何年か振りにイルカショーを見た。彼と声を掛け合って楽しいをシェアできて気持ちよかった。気付くと自分に笑顔が増えていたー。普段使ってない筋肉をめいっぱい使ったような気がする。さて、次に訪れたのは京友禅体験工房での染め物体験だった。何種類かあるうちの型紙を選んで染料を筆に取り塗って染めていく。仕上げた後で根本さんと見せ合いっこして、感想を言い合った。イケボとの会話は殊の外、心が癒された。そしてその次に行ったのがビール工場の見学で機械を見たり、ぬいぐるみと一緒に撮影したり……私と根本さんふたりで一枚のフィルムに中に納まった。『ねぇ、確実に私……運気上がってない?』存外に楽しくて、バスから降りる段になるとあっという間の一日だったなぁ~なんて思えた。自宅に戻れる安堵感と共に、ひょいと寂しさが顔を出す。「今日は1人きりでの行動だと思っていたのに根本さんと同行できて楽しかったです。ありがとうございました」「それはわたしのほうです。やっぱりおしゃべりできる相手がいると楽しいし、時間の過ぎるのがあっという間でしたね。ははっ。」「じゃあ、これで失礼します」そう言い、美鈴が潔く踵を返し歩き出したあと、根本から思い出したかのように呼び止められた。「そうだ! 自分のところの宣伝みたいで申し訳ないですが……」美鈴は声の主の方へ振り返り首を傾《かし》げて返した。「はい?」「実はですね、もうすぐ毎年恒例のウォーキングイベントがあるのですが、 よろしければ参加してみませんか? 一緒に参加するご友人とかご家族がいらっしゃらないのであれば、わたしがお供しますので」目の前のイケボが言う。『わたしがお供しますので……』『わたしがお供しますので…』『わたしがお供しますので』行くに決まってるでしょ。「予定が入っていなければ、参加させていただきますね」「ありがたい。じゃぁ、詳細をご連絡したいので名刺に載せてるわたしのメールアドレスに空メール送ってもらえますか」「……はい分かりました。今どきは名刺にメルアドも書いてあるんですね」「はははっ、役所

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